「バイトと男と女と思い出A」


 次は友人(男性編)である。
 職場が大きかった為、アルバイトはたくさんいた。男だけでも10人はいただろう。部門ごとに仕事がまったく違った為、密接な関係があったのは数人だが。
 僕が仕事を始めた頃は、みんな年上だった。3人程の先輩がいて、とても優しく教えてもらった記憶がある。中でも特に覚えているのがU先輩である。

 細長い顔の先輩で、仕事に関して言えば「バリバリ!」というタイプではなかった。つまり、一番初心者っぽく、僕とアルファ波(?)が同調したのである。昼食は必ず「海苔ミックス弁当」というスタイルも素敵だった。ちなみに海苔ミックス弁当、略してノックスは、ノリを被せたご飯に、メンチ、ウィンナーなどのおかず入った、簡単に言えば「子供が欲しがる食材ばかりを集めた海苔弁当」である。U先輩はそれしか食べなかった。
 他にも無意味に店内放送で僕を呼び出すしょーもない先輩や、何もかもが丁寧で完璧な先輩など、僕のバイト人生の出だしは非情に恵まれていた。
 そして、彼らが卒業し、今度は僕が先輩になるようになった。それまで、店は高校生はほとんど知採らないという主義を貫いていた。理由は知らないが、とにかく採っていなかった。が、先輩達が卒業して、一気にバイトの数が減った事により、ついに店は高校生万々歳! という方向に変わった。その為、「お金欲しいっす!」という高校生がドバドバ入り、職場の雰囲気は良く言うと若くなり、悪く言うとガサツになった。なんてたって、ガキんちょですからね。

 僕は五年そこでバイトをしていたが、それは非常に長く、僕はその人生の中でたくさんの後輩達の門出を見守ってきた。と、こう言うと好印象だが、ようは飽きやすい高校生。何かあるとすぐに辞めてしまったのである。
 特に印象に残っている後輩が2人いる。1人は太っちょの少年で、仕事も正直に言えばよくできるとは言えないタイプのヤツだった。
 彼はクビという形で辞めてしまったのだが、その辞め方が何とも面白かった。彼はあるおじさんに商品の事で聞かれたのだが、そのおじさんが、
「おい、お前。そのヘラヘラ笑った顔をやめろ」
 と言ったのである。彼はそんな気はまったく無かったらしいのだが、世の中色々な顔のヤツがいる。いつもの顔が常に笑っているようなヤツというのはいるものである。そのおじさんはどうやらそれが気に食わなかったらしいのである。
 すると彼は、
「別に笑ってませんよ」
 と反論。それによって、口論となり、上司が止めに入るという事態を招いてしまったのである。そして、クビである(店長がそう勧告したわけではなく、自分から辞めたのだが)。
 彼らしいとは言えば彼らしいが、そういう時は嘘でもいいから謝っておくべきだったのではないかな、と思う。彼は今、どこで何をしてるのだろう?


 そしてもう1人。彼は僕が今まで出会った男の中で最も女癖の悪い男だった。しかも高校生。
 彼は顔はケイン・コスギに非常によく似ていて、確かに女性にモテそうな顔だった。そして、本人もその事がちゃんと分かっていたらしく、女の子なら誰彼構わず声をかけまくった。でも、男との友情もちゃんと守っていて、モテない君の僕とも結構仲良くやっていた。まあ、僕はそんなに好きではなかったのだが(これは秘密た!)。
 そして彼は、マシンガンの如く女の子と仲良くなり、その結果2人の女性から告白されるという、恋愛シュミレーションゲーム顔負けの事をやってのけた。
が、ここからが現実。その時彼は既に付き合っている女の子がいて、2人共ものの見事にフッたのである。自分で撒いた種を自分で刈り取ったのである。何と まあ、横暴な男であろう。まあ、ハードボイルド小説風に言うなら「単なる遊びだった」というわけである。
 彼が彼女達とどこまで親密な関係だったのかは知らないが、モテない君の僕からしてみれば、何とも勿体無い、というか残酷な男に見えた。

 そんな彼の結末も如何にも彼らしかった。彼は女の子のバイトと一緒に品出しをしている最中に、お客さんに声をかけられ、それを無視して女の子とのお喋りを続けた。それを怒られてクビにされたのである。まあ、彼の事だから、どこに行っても立派に女の子をナンパして、女のヒモになりながら逞しく生きるだろうから、何の心配もしていないが。
 他にも色々な人がいた。サバイバルゲームと美少女ゲームをこよなく愛するヤツ、地味だが背が高く、仕事もバリバリできたヤツ、大量のエロビデオ録画を頼むヤツ、映画大好きなヤツ、洋楽ロックをこよなく愛するヤツ、タダでバイクをくれたヤツ‥‥。
 みんな、いいヤツだった(別に死んだわけではない)。バイトをしていたからこそ出会えた親友である。10年経っても会いたいと思うものである。


 さて、最後に女の子の話と行こう。
 前述したが、僕の職場には女の子が多かった。レジは基本的に女性がやる事になっていたので、いつも絶えず女の子がいるのである。とは言っても、午前中はパートのおばちゃんで、若い子が来るのは午後になったからでしたが(パートのおばちゃんは主婦なので、夕食時には帰られなくてはいけない)。

 僕は自分で言うのも何だと思うが、大学に入ってから性格、特に女性に対する性格が大きく変わった。それまでは正面切って話す事さえ出来なかった。が、バイトをするようになって半ば強制的に人と話す事になり、随分と変わったのである。女の子ともよく話せるようになった。
 たくさんの女の子と親しくなったが、その中で特に覚えている子が5人いる。

 まずは2人いっぺんに言うが、長いバイト人生の中で唯一最初から最後まで一緒にいた子達である。しかも同い年。
1人は本人がこれを読む事があったら怒られるような気もしなくはないが、お尻の形が大変いい子だった。非常に美人で、体つきもお尻に負けず凄く良かった。が、性格が何とも微妙で、いい子なのか悪い子なのかよく分からなかった。簡単に言えば「掴みどころの無い子」だったわけである。まあ、親密な関係というわけではなかったので、詳しくは知らないが(彼氏がいたのかどうかも不明だった)。

 そして、もう1人はこれまた怒られそうだが、顔や体はそれほど‥‥という感じだったが、とにかく性格がいい子だった。妻にするんだったら絶対にこっち、と言わせるだけの力がこの子にはあった。
 この2人と僕とが仲良しだった理由として音楽があった。僕は音楽だったら何でも聞く雑食なのだが、彼女達はいわゆる「ヴィジュアル系音楽」が好きだった。ヴィジュアル系の音楽を知っているのは男でも女でも僕と彼女達しかいなかったので、話が合ったのである。3人して出かけたり、ライブに行ったりというような事は無かったが、CDを借りたり、バレンタインチョコレートを貰ったりと、色々と関係があった。彼女達とは、きっと10年経っても仲良く話ができるのではないか、と思う。

 そして、3人目。この子は以前に話した例の「ケイン・コスギ似の女好きの男」に告白した子の1人である。
 彼女は僕よりも年下で、美少女! という感じではなかったが、「ついつい頭撫で撫でして可愛がりたくなっちゃうタイプの子」であった。別にぶりっ子ちゃんというわけではなく、自然とそういうオーラが出ていたのである。性格も一途という言い方がぴったりで、
 良くも悪くも一直線な子だった。特に恋愛に関しては一直線だった。
 僕は別にこの子に関心があるわけではなかった。例の「告白事件」の事もあり、僕なんが何か言っても意味が無いだろろう、と思っていたのである。が、彼女は常に愛を欲しがる可憐な女の子であった。その為、フラれてもすぐに復活し、何故だか僕と親しくなったでのある。
 何だかんだあり、僕は彼女とデートするまでになった。どうしてそこまで行けたのかは分からないが、愛に飢えていたのだろう、僕も彼女も(うわっ、何か格好良い!)。
 見に行った映画はピクサーの名作アニメ「モンスターズ・インク」。女の子と行くには最適な作品である。彼女もなかなか楽しみ、その後食事をして、更に気取ってネックレスまで買ってあげた。
 つまり、僕と彼女は出だしは凄く好調だった。正直、付き合えるのとちゃうん? とまで思った。が、何故かそうはならなかった。何故か? それは今だから言えるが、タイミングである。告白はタイミングが大事である。僕はその瞬間をいつの間にか逃していて、気がつけば彼女は別の男の子と付き合ってしまったのである。
 結局、その後は何も無かった。この子は「期待を持たせておいて残念」というパターンの最初を作ってくれた女の子であった。‥‥これがいいのか悪いのかは謎だが、「女の子っていうのは思ったより難しい生き物なんやな」と痛感したのである。

 では次の子。この子も「期待を持たせて‥‥」という子であった。
 この子は宇多田ヒカル似の女の子で、細身でなかなか可愛かった。結構男の子からチヤホヤされ、男受けが異常に良く、逆に同性の女の子にはかなり煙たがられていたという子でもあった。俺も結構彼女とは仲良くやっていた。
 が、性格に問題があった。彼女は17歳にして「私って何の為に生きてんだろ〜?」と自分探しに没頭していたのである。高校卒業後の進路に迷っていたというのもあったが、デートの最中もそれに迷っていたのでこっちとしてはたまらない。
 シルベスター・スタローン主演の映画「ドリヴン」を見に行った時も、そんな事ばっか言っていたので、あんまし楽しめなかったという記憶がある。

 更にその後の食事の時も「男と女の友情はありえるのか?」という話題で「朝まで生テレビ」並みの大論争となり、しまいには彼女の彼氏まで呼んで3人で論争するという学生とは思えない事をやっていたのである。
 ちなみに、その時、僕は初めて彼女に彼氏がいる事を知り(しかも同じバイトの男!)、その後は疎遠になってしまったが。彼女はその後、バイトを辞めとある兄弟と同棲をしながらパチンコ屋でバイトをしたという。自分探ししながらも、やる事はちゃんとやってた辺り、彼女はこれからも立派に生きる事だろう。


 そして最後の1人。この人は僕の人生に多大な影響を与えた。御幣でも何でもなく、この人と出会わなかったら、今の僕は存在しないと断言してもいい人である。
 この人はバイトでなく、駐車場の警備員として来た人だった。僕よりも三つ程年上のおねーさんで、凄く美人、いや可愛い人だったのである。
 しかしまあ、可愛い年上のおねーさんとなれば、僕以外の男も当然親しくなろうとするわけで、僕は正直その人と親しくなろうとすら思っていなかった。
「まっ、ワテが何してもしゃないやろ」
 と初めから諦めていたわけである。
 が、どうした事か、僕はその人とかなり仲良くなってしまった。何がきっかけだったのかは、はっきりと覚えていないのだが、確か映画か何かの話だったと思う。
 お互い映画が好きで、今度一緒に見に行こうという事になったのである。
 この時、どんな映画を見たか、今でもはっきり覚えている。「バトル・ロワイアル 特別版」である。‥‥確かにそうでよね。デートとして行くにはダメダメな作品だったと思います。そういう系統が好きな人だったら良かったかもしれないが、あいにくそのおねーさんは全然ダメ。
「よく分からなかったわ、私」
 といきなり言われたのである。この時、僕はもうこの人との関係はおしまいだな、と思った。ところがどっこい、その後もこの人との関係はずーっと続くのである。
 最初に「この人から多大な影響を受けた」と言った。それは一言で言えば「リアルな女性」である。その人がデートした初めての女性ってわけでもなかったし、僕の周りはリアルな女性ばかりだったのだが、この人で初めてそれを実感したのである。
 その後のデートに時などで、
「やっぱり、セックスっていうのは相性が大事よね」
 とか、
「年上の方がテクニックがあって好きなの」
 とか、
「私、自分の会社を設立するのが夢なのよね」
 とか、おおよそ美少女ゲームのキャラクターでは言わないような事をポンポコ言うのである。僕は衝撃的だった。何かこう、
「私って現実的に格好良く生きてるのよ!」
 というオーラをひしひしと感じたのである。それまでデートしてきた女の子は年下がほとんどだった為、そんなリアルな話はほとんどした事が無かった。だから、おねーさんの言葉は衝撃的だったのである。
「きっと、これからの時代はこういう女性が世界を支配していくんだろうなぁ」
 と誇大妄想じみた(?)事を半分マジで思ったのである。
 それから、僕の書く小説というのは明らかに変化した。直球的に言えば「SM臭くなった」のである。前々から谷崎潤一郎大先生に傾倒したいた僕は、「女の前でひれ伏す男」とパターンの作品を作る事があったが、そのおねーさんに出会った事によって、それがよりリアルになったのである。


 他にも色々とあった。残念ながら仕事の途中で倒れて亡くなられてしまったパートのおばちゃんがいたり、店長が万引きだと思って捕まえた人が実は無実で、夜遅くまで怒られたり(僕はその場にいなかったが)、仕事の最中にカッターで指を思い切り切って、青ざめた顔で病院に行ったり、いつもはアニキっぽい態度だった店長が、他の店に移動になった時はちよっと涙ぐんだ顔を見せたり‥‥。
 五年もやっていると色々なものを目にします。それはまさしく悲喜交々(ひきこもごも)。
 嬉しい事もあったり、悲しい事もあったり。
 でもまあ、それが人の人生。それを大いに糧にして、今も生きてる今日この頃なのです。
 いい思い出です。

                              終わり


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